【城戸編198】城戸限定特殊応援
ある初夏の日。
最近あるきっかけで「球界の盟主」バ軍のファンになった私は、バ軍-イ軍戦を観に、家から10分ほどのイ軍本拠地東京新宿スタジアムに出掛けた。
のであるが、野球初心者の悲しいところで、ホームとビジターの位置がよく分かっておらず、誤ってホーム――イ軍側――の席へと迷い込んでしまったのであった。
以前、バ軍本拠地東京ドームで見かけた、家族連れや女性同士でのファン等がいたバ軍ファンたちの健全な雰囲気は皆無。イ軍ファンの群れは、明らかにストレスフル且つやさぐれた雰囲気を醸し出す、社会の負け犬風中年男性がメインの異様な雰囲気が醸し出されていたものである。
――ここから一刻も早く逃亡しなくては。
と、決意を固めたその瞬間、イ軍の4番城戸がヒットを打った。大好きなバ軍にとっては痛手だが、イ軍ファンに囲まれた危険な状況では、歓声を上げるしかないだろう。そう思って、一際デカい声で「ナイスヒット!」と叫び、ワザとらしく拍手をしてみせたのだが――――。
「おいコラ! お前さてはバ軍ファンだな!?」
と、秒速で私がバ軍ファンであると露見してしまったのである。一体何が悪かったのだろうか。会社の出し物では毎年物真似を強制されるレベルでは、演技力に自信があったのだが…。
私を取り囲んだイ軍ファンたちの次のセリフに、噂に聞いていた城戸という選手の凄さの一端を垣間見たのであった。
「城戸がヒット打って喜ぶのは、他球団ファンしかいねえからな」
「うむ。まともなイ軍ファンほど、どうでもいい時にしか打たないくせに超高額年俸の城戸には一刻も早く引退してもらいたいからな」
「城戸のヒットなんて、引退が遠のくだけだからブーイングの対象にしかならないぜ」




