演出効果
イ軍の間壁が男気を見せた。
問題の場面、シーズン最終戦で奪三振のタイトルを狙うべく、前日の先発登板に続いて、3回の8番から始まる打順で登板した間壁。あと2奪三振でウォーラーズの木島を追いこして単独トップになるという状況で、打率1割台の8番打者から三振を奪って、まずはトップタイに並んだ。
タイトル獲得の為のなりふり構わぬイ軍不二村監督の投手起用に、ブーイングが鳴りやまぬ球場であったが、事態は意外な展開を見せた。何と、この時点で間壁が降板。単独獲得も狙えた局面で、敢えてタイトルを分け合う選択をしてみせたのである。
これには球場の誰もがも呆気に取られたが、間壁の粋な計らいに、ウォーラーズファンは万雷の拍手で応えたものであった。
試合後、タイトルの件でインタビューをされた間壁はこう答えた。
「木島君が頑張ってたし、こういのもアリなんじゃないかなと。彼が先発だけで数字を積み重ねてる中で、俺はリリーフもやってたから」
その謙虚過ぎる姿勢はプロとしていかがなものかと、一部で疑問の声もないでは無かった。しかし、殺伐とした話題が続く日常の中で、一服の清涼剤的な扱いでマスゴミは扱ったのであった。なぜならば、間壁のタイトル獲得によるインセンティブは、単独獲得でなければ、金額が半減してしまう内容の契約だったからである。
ところが、数ヶ月後、この件が再びクローズアップされる時が来た。
何と、間壁がウォーラーズに電撃移籍したのだ。彼を気に入ったオーナーの鶴の一声で、強引に決まったものらしいこのトレード、同時に間壁の契約金額も見直され、年俸倍増及び3年契約の、破格の条件となったらしい。
木島とのタイトル分け合いが一体どこまで作用したのかは定かではないが、浪花節を好むオーナーが彼を獲得するに当たって、一つの強力な決め手になった事は間違いない。
間壁は単独タイトル獲得料を敢えて捨てる事により、その何十倍もの大金をせしめる事に成功したのである。イ軍選手が謙虚な姿勢を見せた時は、より一層警戒せねばならないという、非常に分かり易い教訓を残した事例であった。




