ウォーターナイト
「夜の蝶、きらり儚く、スタジアム」
一体何の事かと思う下手糞な煽り文句であるが、「ウォーターナイト」と銘打たれたその日、新宿スタジアムの売り子たちが、キャバ嬢メイク、盛り髪でドレスアップして接客をするだけのイベントであった(因みに、接客それ自体にキャバクラ要素は無い)。当然、「パネマジ広報部長」として悪名高い、イ軍白井の発案である。
いくら球界に新風を吹き込むという名目と言えども、さすがにこれは野球をナメ過ぎだろう。大体子供を球場に連れて来られないじゃないか―――。前評判は、ほとんど最悪と言っていい状況。
しかしながら、良識あるファンの予想を裏切りまくり、ウォーターナイトは近年例が無い程に大盛況。満員御礼までは行かないものの、通常の3倍近い観客が球場に詰めかけたのであった。
来場客の大部分は、満足にキャバクラにすら行けない底辺のサラリーマン男性。本物に行く金は無いが、せめて雰囲気だけは味わいたいと、大挙して球場に押し掛けたのである。実際、普段の売り子がキャバメイクをしているだけという至極単純なイベントなのであるが、若い女の子が健康的な脚を晒しながらバッチメイクの顔を上気させている光景は、普段まず見られない類の艶めかしさ。来場した中年男性が無駄に興奮した影響か、飲食物も飛ぶように売れ、試合終盤、飲料が売り切れてしまうメーカーが続出する程であった。
結果的に大成功、ファン層を的確に掴んでいた白井の大勝利だったが、
「子供が来られない」
という点だけはアンチに執拗に追及された。
対して白井は、こう回答したものである。
「どうせ最初っから来てない」
先の事など一切考えぬ、その場限りマーケティングの白井が本領発揮した、掟破りの集客企画であった。