【風神雷神編⑧】被本塁打世界記録保持者が、廻り廻ってホームランを打たせなかった話
シーズン最終戦、バ軍―イ軍戦。
バ軍の主砲道下の本塁打日本記録更新が掛かったこの試合、何の巡り合せか、イ軍の先発は被本塁打世界記録保持者の「風神」岸谷。バ軍本拠地での試合とあって敬遠が許される空気は一切無く、記録更新の可能性は極めて高いと見られていた。
そんな中、道下は万全を期してある策略を実行。
「「「「「「「「「「風神さん! サイン下さい!」」」」」」」」」」
学生バイトを数百人雇い、試合開始直前の岸谷にサインおねだりで特攻させたのだ。
普段、イ軍ファンのブーイングばかり浴び続けている上にサインは主に貰う側(※車への落書き等)の岸谷は、まさかの事態に大感激。一人一人に立ちながら馬鹿丁寧に長時間サインをする格好となり、道下の読み通り、投球への悪影響は避けられない状況となったのであった。
(フッ、これで本塁打日本記録更新は貰ったぜ。ワイ、天才過ぎィ!)
だがしかし、道下はイ軍選手の恐ろしさ(というか駄目さ加減)を過少に見積もり過ぎていたのである。
結局サインを300枚ほど書かされた岸谷は、普段使わない筋肉を酷使してしまった事で肩と腕が上がらなくなる故障を発症。更に変な姿勢で立ちっぱなしだった為に、腰まで悪くして万事休す。
代わりに登板したのが防御率3点台インセンティブの懸かった神崎で、自分の記録最優先で道下とはまともに勝負しない鋼鉄の割り切りを披露。結果、明らかなボール球に手を出さざるを得なくなった道下は4凡で終了し記録更新は成らず。下手な細工をしたばかりに絶好の機会を逃してしまうという、道徳の教科書に載せたいようなブーメランボールがキマってしまったのであった。




