【綿貫編⑬】出身高校の後輩だけには優しくする、球界一性格の悪い捕手の鑑
容赦無い卑怯な戦法や確かな後輩潰しの手腕で「球界一性格の悪い捕手」として定評のあるイ軍正捕手綿貫。
そんな、他人が寄り付かない系の綿貫ではあったが、一体何の心境の変化があったのか。内心嫌々ながらも、試合前に挨拶に来た高校の後輩――今年マ軍に入団した即戦力の呼び声高い新人投手山野――に対し、熱心且つ親身な指導を展開。投球の際に球種を見破られかねない癖を指摘してあげるなど、いつもは綿貫の言動に辟易させられているイ軍ナインを驚かせたものである。
この綿貫の対応には、前評判とのギャップもあって山野もいたく感激したようで、最後は深々とお辞儀をして足取り軽く去っていったのであった。
「おいおい、あれだけ親切にアドバイスしちゃって、一体どうしちまったんだ。お前の指摘した癖を修正されたら、余計こっちが打てなくなっちゃうじゃねえか。ワケの分からん宗教にでもハマったのか、それとも霊に憑りつかれでもしたのか?」
と、前述の様子を眺めていた神崎が思わず突っ込んだのであるが、綿貫の寄越した回答は、球界一タチの悪い選手ここにありと言わざるを得ない、ビーンボール紛いの内容だったのであった。
「別にアドバイスなんぞ全くしてねえですよ。そもそもあいつの癖なんて俺は全然知らねえし。ああやって有りもしない癖を並べ立てて意識させときゃ、集中して投げられなくなるでしょ。あわよくば投球フォーム自体ぶっ壊れるかもなあ(ニッコリ)。ま、これでしばらくはイ軍の糞打線でも奴を攻略出来る可能性が出たってもんです」




