【イ軍編147】カラクリブルペン作戦
6月の交流戦、パリーグのホ軍―イ軍戦。
イ軍本拠地東京新宿スタジアムで行われるこの一戦、ホ軍予告先発が160kmに迫る剛球を投げ込むエース中橋とあって、イ軍ナインはハナから諦めモード、試合前の打撃練習もテキトーに流していた――――と思われたが、今回ばかりは様子が違った。
「今日は絶対中橋を崩せるからな」
と、普段はまずお目に掛かれない熱心さで練習を展開。まずは待球し、ストライクを取りに来たところを狙い打ちするという方針を徹底するよう、意思統一まで図られたのであった。
「フッ、査定にも直結するし、相手エースが実際に打てそうとなりゃ気合も入るわな」
と、イ軍ナインの様子を満足気に眺めるのは監督の不二村。
そして、視線を移した先には、ブルペンで投球練習をする中橋――――非常に動揺している――――であった。
「大エース様も、ウチの球場に来たのが運の尽き。奴が超神経質なのは宣告承知、ブルペンキャッチャーのミットを『鳴らないミット』にすり替え済みだからな。球が来てないと勘違いした中橋は動揺、勝手に自滅するという寸法よ」
今日の大勝利を確信した不二村は、邪悪な笑みを浮かべるのであった。
だがしかし、不二村のドヤ顔の賞味期限は本人の想定外に短かったのである。
病的なまでに神経質な中橋は、不二村の鳴らないミット作戦がハマり確かに動揺したものの、球速を殺して制球重視にシフト。ピンポイントで苦手なコースを突かれまくったイ軍打線がまともに打てるはずもなく、「これなら普通に投げさせてた方が、まだまぐれ当たりの可能性があった」といった具合に完全に抑え込まれ、見事に奪ノーヒットノーランを達成したのであった…。




