【イ軍編136】イ軍式精神野球
例年同様、今シーズンも春先から記録的ペースで黒星を量産する「球界の掃き溜め」ことプロ野球最弱チーム東京新宿イディオッツ。
6月に入り、いつもならば的外れ&付け焼刃のマシンガン補強が開始されるタイミングであったが、今年は違った。球場へ現れたのはイ軍大好物の引退5秒前ベテランでもハズレ外人でもなく――――その筋では高名な催眠術師であった。
「今までは外側を補強しようとした私が間違ってたわ。現有戦力の内側を補強しなければならなかったのよ」
と、GM柳澤のコメント通り、前述の催眠術師はイ軍ナインを洗脳。かつてのプロ野球史に燦然と輝くかつての大スター、生嶋重王の人格を叩き込んだのであった。
これにより、生嶋の性格的特性――常に明るく異様なテンション、勝負に対する強いこだわり――が、イ軍ナインに発生。チームの雰囲気は俄かに盛り上がり、大勝利の予感しかない、超ポジティブな集団に生まれ変わったのであった。
洗脳後、初めての試合が始まるまでは。
性格的には生嶋となったイ軍ナインであったが、技術は当然そのままなので、いきなり勝てるようになるワケがなかった。気力で埋めようのない実力差に、「瞬間湯沸かし器」の異名を取る生嶋の短気な性格が過剰反応。いつもの事ではあるのだが、連日のしょーもない大敗に、25人の生嶋(一軍登録人数)が一斉にガン切れしてしまい、各球場のベンチやロッカー、給水器等の備品に八つ当たりしまくる大量破壊行動が発生。対戦球団に平謝り&馬鹿にならない金額を弁償(本拠地新スタは弁償で手が廻らずそのまま放置)する事態に陥ったのである。
更に悪い事に、生嶋はスランプを猛練習で克服するタイプの選手だった事が致命的であった。
打てず守れず走れずの不甲斐なさ過ぎる結果を受けて(イ軍ナイン的には通常運行なのであるが)、連日連夜、試合の前後にも常軌を逸した猛特訓を敢行。エア自主トレ&手抜きキャンプでなまりまくったイ軍内の身体が耐えられる筈も無く、病院送りになる者が続出したのである。
こうして補強費を弁償で使い果たした上に、一軍連中がエース相原を除くほぼ全員が病院送りになった事で、イ軍の戦力は完全崩壊。夢のシーズン勝率2割台も現実味を帯びる、とんでもない状況に突入したのであった。




