出戻らせ
イ軍にあって、珍しくチーム優先のプレーが出来るユーティリティー、諸橋。
彼がFA権を行使したと聞いて、誰もが驚いた。
どん底チームのイディオッツに対して、今時の野球選手には希少な「忠誠心」を持っている事で有名な男である。一体その諸橋がなぜ…。
だが、彼のパーソナリティ以上に、実力的に彼を必要とする球団が本当にあるのか、そちらの方が心配されたのであった。便利屋とはいえ決してそれ以上の存在ではなく、まして35歳と若くもない年齢である。
…果たして、諸橋獲得を名乗り出る球団は無く、彼は泣く泣く、FA出戻りとなった場合に適用される制限無しの大幅減俸を呑んで、イ軍と再契約と相成ったのであった。
思い通り、諸橋の年俸を6000万円から一気に2000万円まで圧縮した成果に、GM柳澤はほくそ笑んだ。
「目立ってこそいませんが、あなたの実力は球界では高く評価されています。我々としても引き止めたいところだけど、今の年俸の倍は出すという球団が少なくとも4球団はある…。残念だけど、あなたの将来を考えた時、今回のFA宣言を止める事は出来ない。せめて、来年ウチとやる時はちょっと手加減してくれるとありがたいかな(笑)」
と、天使の微笑みで煽りまくった結果、分を弁えないFA宣言――――からの、想定通りのオファー無し。結局、諸橋はイ軍に戻らざるを得なくなり、「ごめんなさい、まさか戻ってくれるとは思わなかったものだから…。状況が変わって、年俸の枠の関係で、2000万円しか出せないの」と、まんまと年俸削減に成功したのであった。
さて、浮いた4000万円(諸橋には「既に使ってある」と説明しているが)を使ってどのポジションを補強するか。柳澤の腕の見せどころであった。




