【イ軍編126】喰いしんボール
素晴らしい素質を持ちながらも、肥満体が嫌われパリーグの常勝球団ド軍からイ軍に島流しにされた北井。その北井がイ軍の遠征先宿舎の食堂で一人食事をとっていた際、事件は起こった。イ軍不二村監督以下、首脳陣が現れたのである。
ド軍では、「また喰ってんのかお前は」等と食べる姿を見られただけで激しいディスりに晒されていた北井は反射的に身を固くしたものであるが、不二村の発した言葉は、完全に予想外の内容であった。
「おう北井、何だ、そんなんで足りるのか? 野球選手は体が資本だぞ。おーい板さん、こいつにもっとステーキやら肉を持ってきてやってくれ!」
この思いがけない発言に、北井は大号泣。
「いつも太るから喰うなって言われ続けてて…。喰っていいって言われたの初めてです! 俺、監督に一生ついていきます!」
「おいおい、大げさ過ぎるっつーの。とにかくお前はもっと喰え。喰いまくれ。それで体作って、チームに力貸してくれよ。俺の構想じゃお前はオフェンスの貴重な戦力なんだからな」
こうして北井は城戸への忠誠心を爆上がりさせながら、運ばれた肉料理(城戸のおごりと見せかけて後できっちり請求された)をドカ喰いするのであった。
その後、イ軍首脳陣の会話――。
「監督、北井の野郎、あれ以上太ったら動けなくなっちまうと思うんですが…」
「いや、別にあいつにキレのある動きなんか求めちゃいねえよ。あのまま喰わせまくって体デカくして、代打――というか代当たり屋として、勝負所で出塁してくれりゃあそれでいいんだ」




