【マウンドの詐欺師 神崎編①】的山(19)
今日も今日とて序盤に5失点しながらも、その後のらりくらりとかわしまくる投球に徹し、完投してしまった神崎。
多彩かつ冴えない変化球と掟破りのスピッドボールを織り交ぜた、人を喰ったような投球に、観客は毎度の如く苛々させられていた。
「相変わらずふざけた野郎だなあ」
ライトスタンドに陣取る、新宿スタジアムから生えているのではないかと思う程小汚いファンが、楽しげにつぶやく。
「全くな、奴は昔っから変わってねえよ」
自分で自分に返す、小汚いファン。
「そうさな、そういえば奴がルーキーの頃、こんな事があった…」
神崎が入団1年目のシーズン。
タ軍で、高卒のルーキー投手ながら後半戦ローテーションに定着し、7勝を挙げて優勝に貢献したのであった。
そして優勝祝賀会。
ビールかけでは先頭に立って、監督はじめ、球団の重役、マスゴミに至るまで、さんざ黄金の豪雨を降らせまくったものである。
当時、未成年の飲酒や喫煙について今ほどうるさくなかったとはいえ、スポーツ新聞的には19歳の神崎がビールかけに参加しているという事実は、格好のゴシップネタであった。
「的山選手、未成年ですよね?」
鬼の首を取ったようなドヤ顔で追及しまくるマスゴミ。
しかし神崎は、更に上を行く勝ち誇り顔で、こう返したのであった。
「バーロー、俺は22歳だっての! ドラフトで入団しねえと条件が悪くなるから、18歳って事にしといただけってーの!」
なーんだそうだったのか、なら大丈夫ですね!
というワケには、さすがにならなかった。
ドミニカの代理人が自らの報酬額を釣り上げる為に、年齢詐称、身分詐称(的山という偽名を使っていた)で、神崎を別人に仕立て上げていたのであった。
結局、球団が「ドミニカの代理人に騙された可哀そうな若者」というストーリーをでっち上げた為、重い処分を課されなくて済んだものの、一歩間違えば球界追放にも繋がりかねない場面であった。
現在はスピッドボール疑惑から「マウンドの詐欺師」の異名を取る神崎であったが、ルーキー時代から年齢・身分を詐称しており、既に一級の「とんだ一杯喰わせ者」だったのであった。




