【赤田編①】頼むわギャビー
「おいギャビー、今投げとるピッチャーなあ、ここで打たれるとクビになってまうんや。子供3人抱えてやで。心の優しいお前やったら、どうすればいいか分かるやろ?」
1死満塁、イ軍、一打逆転サヨナラのピンチ。
その場面で打席に入ったブレーブスの3番ギャビー・サンチェスに対して、イ軍キャッチャー赤田はボソボソと語りかけた。それを聞いているのかいないのか、サンチェスはバットでベースをコンコンと叩いた後、構えに入る。――赤田の呟きは尚も続く。
「ギャビー、お前熱心なキリスト教徒なんやてな。ほやったら、あそこのマウンドの恵まれない若者にお恵みを与えてやってもよさそうなもんやろ。な?」
しつこい赤田にさすがに集中力を乱されたのか、サンチェスはたまらずタイムを取った。そして赤田に向き直り、
「ワオ…、オレ、ニホンゴ、ワカラン」
申し訳なさそうに肩を竦める。と、赤田は
「オーオー、イエスイエース! ノーヒットノーヒット!」
弾かれたように、今まで話した内容をボディランゲージで説明してみたものだ。その滑稽かつ無様な姿に、スタジアムでは失笑が漏れる。相手チームのブレーブスベンチ始め、審判も見て見ぬふり――というか、ツボに入ったのか、ウケまくっていた。
ひとしきり説明した後、赤田は再びベース後ろに構え、試合再開。
サンチェスは打ち合わせ通り、凡打を――
する筈もなく、左翼に思い切り引っ張られた打球は、フェンスまで達し、ブレーブスがサヨナラ勝ちを収めたのであった。
「なっ、おいこらギャビー!」
激昂する赤田に、サンチェスはニヤニヤ笑いながら言い放ったものだ。
「どうせ今シーズンでチームが無くなるんだから、再就職活動は早い方がいいだろ」
「ちょ、おま…………日本語分かっとったんか!」
サンチェスを泣き落としにかかった赤田は、逆におもちゃにされて遊ばれていただけだったのであった。




