【イ軍編114】御前試合が呼んだ悲劇
7月に入り、目下泥沼16連敗中の東京新宿イディオッツ。
打てず守れず走れず、その上に暑さでやる気無うと、全く死角の無い敗北集団と化していたイ軍であったが、この日の試合前練習では一味違っていた。
皆、一様に引き締まった顔で、いつになく真剣に練習に取り組んでいるのである。
「フッ、どうやら俺の作戦がハマったようだな」
というドヤ宣言的独り言の主は、勝負所で併殺を繰り返しSSS級戦犯となっている4番城戸と並んで大ブーイングの標的となっている監督不二村である。
「年俸どうするかの権限を持ってるオーナーが見に来るとあっちゃあ、必死こかねえワケにゃいかねえからなあ」
そう、不二村の画策で、連敗脱出へのカンフル剤として、病身のオーナーを球場へ召喚する事に成功したのである――――と言っても、広報白井に土下座して手配してもらった偽物、そっくりさんではあったのだが。
とはいうものの、オーナーが近年滅多に表舞台に出ていない事もあり、ナインは完全に騙され切っている様子。16連敗中ではあるものの、ようやく見えた勝利への光明に、不二村は不敵な2828を止められないのであった。
だがしかし、この仕組まれた御前試合は、とんでもない悲劇を呼んでしまったのである。
「おい、ウチのオーナーはとんでもない野球音痴だからな。チームの勝ちは置いといて、ホームラン打つか三振取るかしないと、評価されねえぞ」
と、オーナーが健在だった頃を知る城戸がイ軍ナインに情報を流したのが運の尽き。
打者が全打席ホームラン狙いでフルスイング、投手が全打席三振狙いでフォークボール(ただし落ちない)を多投した結果、19三振9被本塁打で0-25と、想像を遥かに超える凄まじい完敗を喫してしまったのであった。




