501/5134
【イ軍編108】求む、最強のタクシードライバー
南九州某県。
毎年恒例、あるセリーグ球団の春季キャンプの会場周辺にあるタクシー会社では、連日のように裏道、近道の確認が行われていた。
昨年、高卒でこのタクシー会社に就職した新人は、一体何事かと目を白黒させるばかり。
自分の村でプロ野球のチームが毎年キャンプをやっているというのは何となく知っていたが、これだけ大騒ぎするようなイベントであった記憶は一切無い。先輩社員に、思わず問うたものである。
「裏道やら使わんけりゃならんほど、ファンがようけ来るとですか」
だが、この問いに対する先輩の回答は、想像を完全に超える突拍子も無いものだったのである。
「いんや、ここでキャンプするのは人気の無いチームじゃけえ、ファンなんか全然来ん。しかしの、選手が村内をランニングするんじゃが、やる気の無いベテランたちが、こっそりタクシーに乗って、さも走っとるように見せかけようとするんじゃ。それで、運転手が裏道と近道をちゃーんと知っとらんといけんのよ」
以上、「球界の掃き溜め」こと東京新宿イディオッツの春季キャンプ会場に於ける、地元住民たちの一コマであった。




