【綿貫編⑫】溢れる愛が、スタンドへの流星を架けさせた
球界一性格が悪い事に加え、世界ランカークラスの嫌妻家でも知られるイ軍の正捕手綿貫。
結婚当初の数年間こそ仲睦まじく、妻の誕生日に試合があれば必ずバースデーアーチを飛ばしていたものであるが、資産管理で大揉めして不仲となって以降は完全にバットが沈黙。「あの日は俺を試合に出さない方がいいぜ。奴(綿貫妻)から『ワシへの愛が綿貫を打たせた』とか何とかワケの分からねえ事を言われるのが嫌なんで、絶対打たないから」と、綿貫が言ったとか言わないとか。互いの職場(綿貫妻は女優であった)を巻き込んで、一大泥沼抗争が繰り広げられていたのであった。
だがしかし、世間体を異常に気にしつつの慰謝料配分を巡って繰り広げられた長期抗争に、綿貫が遂に白旗を上げたのか。今年の綿貫妻の誕生日、綿貫のバットからは実に10数年振りにバースデーアーチがスタンドへ叩き込まれたのであった。
そして、試合が行われているイ軍本拠地新宿スタジアムのオーロラビジョンに、綿貫夫妻のこれまでの結婚生活が、仮面全開完全ヤラセ仕様で流された――。
「おい、遂にあのサイボーグ嫁にギブアップしたのか?(※綿貫妻は若さに固執し整形癖がある事で有名であった)」
次打者の草加部がホームに還って来た綿貫に突っ込みを入れたものであるが、綿貫の回答は、予想を超えるどうしようもなさだったのであった。
「んなワケねえだろう。新しい愛人の誕生日がたまたま同じ日なんだよ」




