考えたら負け
『球界の姥捨て山』ことイ軍への移籍が決定してからというもの、己の運命を呪い通しだった団であったが、今ではその思いも急速に薄れつつあった。
今日の試合、自らはタイムリーを2本放って3打点を挙げたものの、先発マリオが3回7失点で試合を破壊して敗戦。これで6連敗である。
以前所属していたジ軍では、これだけ連敗しようものならチーム内外で大騒ぎになっていたところだが、イ軍では「これが当たり前」と言わんばかりに、淡々としたものである。
負けて当たり前。負けても何も感じない――。
思えば移籍直後の試合、誤審が絡んで惜しいところでの敗戦を喫したのだったが、まともに悔しがっていたのは、団と、先発投手の相原だけであった。
チーム全体があまりにも負け慣れているせいで、感覚が麻痺しているのである。
団自身、以前ならば勝つ為の自己犠牲、進塁打やバントも厭わなかったのが、1番から8番まで適当に振り回すだけのイ軍打線に感化され、状況を考えない好き勝手なバッティングに終始するようになってしまった。実際、勝利に繋がる地味なプレーは、査定に全く反映されないとも聞いている。
勝利への渇望が急速に失せ、いかに自分が打つか、そして他の連中の無気力プレーで、いかに試合が早く終わって家に帰れるか…。
いつの間にか、そんな事にしか関心が湧かないようになり、表面上、ホームラン数等の打撃の数字は若干上がったものの、専門筋からの野球選手としての評価は、大幅に下落してしまったのであった。
団のような常勝球団で育った選手でさえ、イ軍の負のオーラに取り込まれてしまったのである…。