死の手料理
サ軍エース砂押の妻祥子と言えば、球界でも「出来た妻」として有名であった。特に食事に対しての気遣いは尋常ではなく、砂押の前日の体調を考慮しつつ、体が資本であるスポーツ選手に必要な栄養素を徹底的に考え尽くした料理を用意。砂押をして、「俺がここまでの選手になれたのは、半分以上は妻の手料理のおかげ」と言わしめる程であった。
そんな妻の強力なバックアップに支えられた砂押であったが、今年から何故か球界最弱を誇るイ軍戦で不調を囲っていた。イ軍戦を迎えるタイミングで体調不良を引き起こし、不本意な投球に終始してしまうのである。
「一回お祓いでも受けた方がいいのかもなあ」
等と、チーム内で最初は冗談で言っていたネタについて真剣にならざるを得ない程、薄気味の悪い現象ではあったのである。
一方その頃、砂押をイ軍本拠地新宿スタジアムに送り出した後の妻祥子――。
「ええ、今日もしっかり仕込んどいたから。だって、あなたの頼みじゃ断れないもの――」
同時刻、イ軍打撃コーチ柴田は、邪悪な笑みを浮かべて携帯を切った。
「フッ、砂押の野郎、まさか祥子が一服盛ってきてるとは夢にも思うめえ」
そう、砂押の妻祥子は柴田と目下泥沼不倫中であり、イ軍ナインがサ軍エースである砂押を打ち込んで柴田の手柄となるよう画策。イ軍戦前でだけは、疲労が取れ辛い逆スペシャルメニューを砂押に振る舞っていたのであった。
そして、満を持してプレイボール。
絶不調の砂押は、大便秘打線と悪名高いイ軍打線でも何とかなりそうな有様であったが、今回はイ軍ナインが一枚上手であった。
ただでさえエア自主トレ&手抜きキャンプで体が出来上がっていないところに来て、「今日は砂押か。じゃあ打てるワケねえわな。シーズン後半に向けて体力温存しとくか」とばかり、試合前打撃練習をエアで済ませる荒業に出ており万事休す。
両者超グダグダな状態でとんでもなく低レベルな勝負が展開された結果、砂押とイ軍打線の地力の差が出て、結局は砂押が8回1失点で勝利投手に。こうして柴田の企みは、自軍選手の想像を超えるアレさ加減によって叩き潰されたのであった。




