【イ軍編3626】必殺、ライトニング・ボール
「マウンドの詐欺師」こと最弱イ軍の先発二番手である神崎が、登板前の投球練習で、バランスを崩したような珍妙なフォームで投げていたものである。
「神崎さん大丈夫ですか、あんたがちゃんと投げないと、こっちに登板指令が来る危険性があって大迷惑なんですが」
と、嫌な顔をしつつ指摘したのは、ヤングエース相原。監督の戸部が勝率2割以下の大暗黒で解雇5秒前、延命の為の不毛なスクランブル起用を危惧しての言であった。
「バーロー! こちとら自分しか信じてないから、リリーフ出されんように抜かりは無いっつーの! いくらユーが凄い球投げる言うてもよ、リリーフでいきなり出てきたら当方の球と球速差があり過ぎて捕手がポロリラッシュ、負け確みたいなモンやからなあ。まあ見とれ、今練習しとるライトニングボールで大丈Vやねん(確信)」
というアンサーをしつつ、神崎は謎の挙動不審フォームから、大層なネーミングの何の変哲も無い棒球を投げ込むのであった。
果たして、空が分厚い雲に覆われて不安定な天候の下に行われた試合で、神崎は6回を108球1失点にまとめて降雨コールド引き分け。この好投に、相原もさすがに唸らざるを得ないのであった。
「いや神崎さん、ライトニングボールとかワケの分からん事言うても、何だかんだで結果出すのは大したモンですわ。まあ真似しようとは絶対思わないけど」
「ワァはユーみたいな力のある球を投げられるワケじゃあないからなあ。こういう細かい仕込みが大事なんや。この天気ならお空ゴロゴロピカピカドンドンなってもおかしないからな、ワァが投げるタイミングに合わせて球場係に雷サウンド被させてよ、『雷怖いマッマー!!!!』みたいに目を瞑って投げて制球乱れましたポーズで、苦手打者をデッドボール一球で処理すると。この自然な動きで先様の決定的悪感情と審判の危険球判定を回避しつつ投球数を抑えられて省エネになるという、世界に一つだけ落ちた雷、オンリーワン・ボール(適当)なんやで」




