【イ軍編3543】超時間差、性格最悪捕手がヤングエースを認めた日
最弱イ軍のヤングエース相原先発試合。この日、絶好調の相原は8回まで散発の被安打4、与四球1、12奪三振の快投。打っては自ら叩き出した3ランで、9回を迎えて3-0と完封目前だったものである。
この状況で、9回マウンドに上がる前、珍しく自分から正捕手の綿貫に声を掛けたものである。打たれたら5億%投手のせいにしてくる綿貫に対し相原がオールタイムガンギレ、犬猿の仲のバッテリーであったが、相原の申し出に「おいおいおいおい、何を言い出すかと思ったら…。何かあったら全部そっちの責任だからな」と、綿貫は驚きつつも了解したのであった。
果たして9回表、対戦バ軍の6番から始まる打順で、6番を投飛、7番を空振り三振と簡単に退けたまではよかった。しかし、8番、9番でのバ軍の代打攻勢に、これまでギリギリのコースを突きまくっていた相原の制球力が突如乱れ、惜しいところではあるが8連続ボールで四球を出して無死一二塁。ここで打順が一番に戻り、バ軍最強打者の佐田を迎えたものである。ここでも相原の制球は戻らず、球速はこの試合最速の153を叩き出すも、3ボール0ストライクと荒れ模様。
「おいコラ何をビビってんだゴルァ! だから○○出は場違いってんだボケが!」
と、マウンドの相原に向かって激しく挑発した佐田に対して、相原の表情が変化し、白いものが――――いや、口元をグラブで隠した。
こうして投じられた4球目、ストレートが佐田の右手首を直撃し、もんどりうって絶叫からの治療を受けるも、完全に骨が折れており、そのまま病院へ直行となったのである。相原は一度帽子を取った後、近くまで駆け寄って、やはり時折口元をグラブで隠して佐田の様子を伺う。
その後、相原は完全に切り替えたか、次打者を147kmのカットボールで初球投ゴロに打ち取りゲームセット。マスゴミから教えてもらった佐田の携帯にお見舞いの留守電を吹き込んだ後、綿貫から声を掛けられたのであった。
「世間じゃ俺が畜生だの性悪だの言われとるが、お前にゃあ負けたわ」
「何言ってんですか、あんたは誰彼構わずだけど、俺は滅多な事じゃあやらない、ちゃんと人は選んでますからね。プレーに対してはともかく、出自のいじりだけはNG、野郎は生粋のDQNだから面白いと思ってやってて救いが無い。特にこっちが奴を抑え始めた去年あたりから、動揺させようとしてんのか何なのか、マジでしつこ過ぎんだよ」
「しかしアレだなあ、俺クラスになると回りくどい仕込みから後処理まで含めて全部ヤラセと分かるが、『健気なイケメンヤング相原』の虚像を信じたいバカ客は、今日のは完全に事故だったと騙されとるやろ」
「ははは、実際事故だからしゃーないですよ。野球の神様だか何だかがクッソ差別野郎の佐田を許さなかったんじゃないすか。俺のせいじゃないです」
「ったくよー、お前怖いんだよ、グラブで口元隠して、悲しそうな目をしながら思いっきり笑いよって、ヘンなとこで器用な仕草見せやがって、こっちまで笑いそうになるから止めろよああいうのは藁」
「いやあ、でもアレですね、復讐が虚しいなんてのは完全に嘘、復讐されるリスク持ちのポジショントークだなあ。やってみて分かりましたが気分爽快、ストレス解消、自分の尊厳も回復出来て、いい事尽くしですわ」
「佐田がいない間はバ軍のロッカールームでパワハラも消えるだろうし、人助けにもなってるしな藁藁」
そして更に時は流れ、相原の正体が明らかになったのであるが、
「ファーーーー出身地がどうとか、実際は全然違ってんじゃねえか! あの野郎、単に佐田が気に入らなかっただけだったんだなあ、そうと分かってりゃあ、イ軍で一緒にやってる時もう1㍉は仲良く出来たかもな藁」




