【不二村監督編⑩】判定裏取引
「おいおいおい! 今の判定はさすがにマズイんじゃねえのかい?」
球審井野が(しまった!)と思った時にはもう遅い、イ軍エース相原が投じた低めギリギリストライクをボールと判定してしまった瞬間、イ軍ベンチから監督不二村が飛び出し、開口一番クレームをつけてきたものである。
普段の井野なら秒速でカウンター退場に処すところであるが、今シーズンは自らの拙い判定が原因であまりにも退場者を出し過ぎる事で、連盟から目を付けられているタイミング。ここは何としても丸く収めねばならぬ状況なのであった。
そこで、井野は不二村に裏取引を提案。その内容に不二村も納得し、何とか最悪の事態は回避したのであった。
さて、試合が進行し、8回裏イ軍の攻撃。1死1、2塁、バッターは不振を極めている「4億の不良債権」「鬼併(※併殺)犯科帳」こと4番城戸である。
ここで、井野は際どいボールを立て続けにストライクとコールし、三球三振。
「おいコラ! 今の判定は何なんだよ!」
思わず悲鳴に似た絶叫を上げ、井野に詰め寄る城戸。
それを制したのは、先程と同じく、ベンチから弾丸のように飛び出してきた監督不二村であった。
「俺に任せろ!」
そして、言うが早いかグイと井野に顔を近づけるも、井野は
「借りは返したぜ」
と、涼しい顔である。
これに対して不二村は猛抗議――のフリをして、小声で礼を言ったのであった。
「おお、助かったぜ。城戸の野郎はこういう場面で三振させとかないと、必ず併殺るからな」




