【城戸編121】自主シフト
マ軍―イ軍戦。
一番から八番まで本塁打を狙える強打者が居並ぶマ軍に対し、イ軍先発は被本塁打世界記録保持者の“雷神”渡瀬とあって、イ軍は外野陣を初回からフェンス限界まで動かす、極端な守備を敷いたものである。
――いや、それだけでは終わらなかった。
何と、一塁手の「アジアの空砲」こと城戸が通常の守備位置から遥かに後退し、実質外野四人制の様相を呈していたのである。かつて、内野を抜かれぬよう外野手を内野に持ってくるシフトは球史でも散見されたが、その逆で外野を厚くするとは…。
イ軍監督不二村、遂に狂ったか。
と、プレーボールが掛かる直前のタイミングで、不二村がベンチから飛び出し城戸の元へと一直線。何やら激しい言い合いが始まったものである。その様子から、どうやら城戸のシフトは不二村の指示ではなく、彼奴の独断によるものらしい事が窺い知れた。
そして、お約束のチーム内乱闘開始。その際の城戸のしょーもなさ過ぎる絶叫で、全ては明らかになったのであった。
「おい! 俺はチームの為を思って下がったっつーの! 決してマ軍打線の弾丸ライナーが怖いから下がったワケじゃねえっつーの!」




