【東京新宿スタジアム編①】ブラックホールスタンド
パリーグからイ軍に流れてきた右翼手番田は、常々疑問に思っていた。イ軍本拠地投球新宿スタジアムで右翼にフェンスぎりぎりの飛球が打ち上がった時、なぜ誰もよじ登って捕球しようとしないのか?
体型的にジャンプ出来そうもないイ軍外野陣はともかくとして、他チームの名手と呼ばれる選手ですら、何故か新スタの右翼守備では大人しくなってしまうのである。
移籍初日、早速イ軍ナインに前述の疑問をぶつけてみた番田であったが、彼奴らは一様にニヤニヤするだけで、誰一人まともに答えてはくれぬ。念の為にググってはみたものの、PCに疎い番田ではついにそれらしき情報に辿り着けず、その過程で誘導されたエロページで、ただいたずらに時間を浪費してしまうだけなのであった。
非常に不気味ではあったが、番田はここで守りに入るワケにはいかなかった。何せ、「球界の掃き溜め」として悪名高いイ軍に移籍、いや、実質島流しにされた身である。早い段階で他球団に対して実力をアピールしておかなければ、このまま野球人生が幕を閉じてしまうのは誰の目にも明らかであった
そして、イ軍移籍後初の新スタ開催試合。
7番右翼で起用された番田に、早速見せ場が訪れた。
対戦マ軍の4番打者が、ギリギリフェンスオーバーしそうな大飛球を右翼に打ち上げたのである。
待ってましたとばかり、フェンスによじ登って捕球態勢に入る番田。
(よし! イ軍の地蔵外野守備の中でこれは目立つぜ! ガンガンアピッてこんなとこからはさっさとおさらばだ!)
イ軍に似つかわしくない溌剌とした動きで、若干難しい当たりながら余裕でアウト――――の筈であったが、捕球の瞬間、番田はスタンド内に倒れ込んでしまったのであった。
「おい! 新入りに右翼スタンドの事を誰も説明してなかったのか!?」
イ軍監督不二村が慌てまくるが時既に遅し。番田は忽然と姿を消してしまったのであった。
その後、新宿二丁目ゲイバーの草野球チームで、番田らしき人物を目撃したとのツイートが何度か上がったのであるが、それはまた別の話である…。




