【城戸編119】暗殺打法
「あの野郎、絶対に許さねえ! 絶対にだ!」
イ軍本拠地、新宿スタジアムの室内練習場から、くぐもった絶叫が聞こえる。
「4億円の不良債権」こと4番打者の城戸が、激しい秘密特訓に励んでいるのである。
城戸と言えば、シーズン中は絶対に練習しない事で悪名高いのであるが(オフも全然練習してないエア練習の鬼であった)、今回ばかりは事情が違った。
サ軍監督に、かつて城戸の華麗なピンポイント欠場と汚いバントヒットで首位打者のタイトルを奪われた久藤が就任。タイトルを掠め取られた恨みは凄まじく、投手陣に指示して、城戸に当てる事を厭わないビーンボール紛いの執拗な内角攻めを展開。さすがの城戸も、対応策を取らざるを得ないところにまで追い込まれていたのであった。
果たして、次回サ軍本拠地でのサ軍戦。1回表、早速城戸の打席が廻ってきたものである。
サ軍監督久藤がベンチ最前列まで現れて、わざわざ頭に銃を撃つビーンボールのサインを投手に送り、それに思わずダブルファックポーズで切り返す城戸であったが、ともかくも、バッターボックスに入る。
そして初球、ホームベースから限界まで離れて立った城戸が、珍しくフルスイング――――その直後、球場の観客たちは信じられない光景を目にしたのである。
何と、城戸の手から放たれた、というかすっぽ抜けたバットが久藤の股間を直撃。担架で運ばれて即病院送りとなったのであった。
「手が滑ったわー、マジ手が滑りまくったわー、ワザとじゃないわー」
と、満面の邪悪なドヤ顔で会心の棒読みコメントを連発する城戸。
そう、城戸の特訓とは、類稀なバットコントロールを最大限悪用した、すっぽ抜け暗殺打法だったのである。
その後、低迷していたサ軍は、病院送りで長期欠場となった久藤の糞采配から解放された事で怒涛の連勝を記録し、ペナントを制覇。
更に、ワケの分からない打法習得の影響で打撃を壊した城戸はいつも以上に全く打てなくなり、チーム低迷最大の戦犯に。
イ軍に取っては城戸がビーンボールに当たって欠場してくれた方が余程よかったという、散々過ぎる結果となったのであった。




