【イ軍編50】全力総抗議
春先のサ軍―イ軍戦。
両軍ともチャンスは作るもののあと一本が出ないストレスマッハの便秘展開で、0-0のまま試合は延長戦へ。
プレイボールからはや5時間が経過しようとする延長10回表、サ軍の主砲岩迫が犠牲フライを放ち、遂に均衡が破れたのであった。
だがしかし、あまりにも長過ぎる出待ちにリズムが狂ってしまったか。サ軍クローザーの高めにすっぽ抜けた球を、イ軍新人黒野が何も考えずに強振したところ、打球はレフトポール際へ。
一度はホームランの判定が下されたものの、サ軍監督の猛抗議で覆りファウル判定へ。さすがにこれに納得が行かなかったか、イ軍ナインが総出で三塁塁審の元へ猛ダッシュ。
「おいコラ! 何のつもりだお前ら!」
と、ビビるサ軍監督と三塁塁審をぐるりと取り囲んだのであった。
「べ、ベテランのみなさん…」
普段、イ軍ナインのアレ過ぎる言動を散々眺めていただけに、彼奴らの意外過ぎる行動に思わず目頭を拭う黒野であった。
そして、既に8回の時点で退場になっており、スタンドで観客に化けて試合を観戦していたイ軍監督不二村も、
「お前ら、ようやく俺の勝ちたいという思いが浸透したんだな…」
と、自ら抗議に向かおうとした足を止め、声を詰まらせるのであった。
だが、イ軍ナインはどこまで行ってもやはりイ軍ナインであった。
「おい審判! 不二村の野郎が出て来ない内に早くファウル判定で確定させろ!」
「もう5時間も試合やってんだぞ。とっとと帰りたいっつーの!」




