【城戸編116】ヘイヘイ、コーチビビってる
イ軍の春季キャンプが始まった。
過去5年連続最下位ながら、「今年は優勝や!」と、出来もしない妄想をブチ上げただけあって、開始直後の現時点では、キャンプに珍しく活気が漲っていたものである。
特に、打率、本塁打、打点他全てのチームスタッツが軒並み最下位で終わった攻撃面をテコ入れすべく、昨シーズンから総入替となった打撃コーチ3名が燃えていた。
いずれも過去何らかの打撃タイトルホルダー経験者であり、選手時代の実績は抜群。しかし自分の経験則でしか物事を語れない割に、無駄に教えたがりいじりたがりの壊し屋揃いで、ブランドに弱いイ軍でなければ絶対にコーチとして招かれるはずもない、とんだ一杯喰わせ者たちであった。
「どうせ若い奴がダメになっても、素材のせいにしといたらええんや」
とばかり、若手の打撃を熱血指導の名の下に魔改造しまくる打撃コーチ連であったが、昨年最下位のA級戦犯である「4億円の不良債権」こと4番城戸については、本人の裁量を大幅に認め、自分のペースで調整させているのであった。
「フッ、いくら連中がタイトル取った事あるからって、2000本安打を打とうかという俺の方が確実に格上だからな。奴らもそこはわきまえてるってこったな」
隠しきれないドヤ顔を溢れさせながら、汗をかいたように見せかける霧吹きシュッシュを欠かさぬなど、城戸は今日もキャンプの手抜きに余念が無いのであった。
その後、新任打撃コーチ陣打ち合せの席上――。
「いやあ、城戸だけは勝手にやらせとくしかないですね」
「ええ、下手に奴を指導しようもんなら、駄目だった時に間違いなく自分まで戦犯にされますからね」
「城戸については、『ワシらは育てとらん!』で行きましょう」




