【草加部編④】ダークサイドグラウンドならし
草加部さん、あんた一体、どうしちまったんですか――。
春先のマ軍―イ軍戦。
今年パリーグから移籍してマ軍の遊撃を守る桑野は、イ軍遊撃草加部の奇行を信じられない思いで眺めていた。
3回時点でイ軍先発“風神”こと岸谷が被本塁打世界記録保持者の本領を発揮し、5ホーマー11失点の大炎上。対するマ軍先発が好調エース池井とあって、早くも勝負ついた感が漂っていたものであるが、そんな中、イ軍遊撃を守る草加部が、マ軍ベンチに鋭いガンを飛ばしながら、ひたすらグラウンドを蹴り上げまくっていたのである。――あれだけ掘り込んでしまっては、イレギュラーしまくりで、ちょっとまともな守備なぞ出来ないであろう。敵チームの遊撃にエラーさせようという、嫌がらせの一種としか思えない行為であった。
草加部といえば、どんなに難しい当たりでも簡単に捌いてしまう素晴らしい守備力の持ち主として、その筋ではかなり評価の高い選手であった。しかしながら、派手さが無い守備がファン始め世間一般には全く評価されず、更にはイ軍に流れてザル野手陣の煽りを喰らって超重労働のショカフトンター(ショート+セカンド+レフト+センター)をやらされて、やさぐれてダークサイドに堕ちたと、専らの噂ではあったが…。
とにかくも、とんでもなく長い3回の攻撃がようやく終わった。
かつての草加部の守備を目標にプロ野球選手になったような面もあるだけに、桑野は何とも言えぬ思いで、草加部が荒らしまくった遊撃の定位置に就くのであった。
一方ややあって、イ軍ベンチの神崎と草加部。
「おい草よ、マ軍のショートがグラウンドで下を見ながら大爆笑してるけど、何かあったのか?」
「いやあ、岸谷がフライばっか打たれてボールが来ねえからヒマでヒマで…。グラウンドに足でマ軍監督をネタにしたヘタウマお笑い系の似顔絵を描いてたんだよ。あれだけウケてくれりゃあ、やった甲斐があったってもんだ。写真撮っときゃよかったなあ」




