【城戸編113】錯視打法
時は9月。
5月の時点で首位戦線から完全脱落、8月半ばには最下位確定となった東京新宿イディオッツ。エア自主トレ&手抜きキャンプでなまった体が4~8月の5か月間の試合でようやく仕上がった結果、今年も「消化試合の鬼」こと4番城戸を筆頭に、無駄にペナントレースを引っ掻き回しては上位チームとそのファンに本気で嫌がられているのであった。
本日のバ軍―イ軍戦も、両チームのエースが一歩も引かぬ緊迫した投手戦となったのであるが、事件は8回裏、イ軍の攻撃で起こった。
状況は1死1、2塁、打席には4番城戸である。バ軍側の定石通りにいけば、ここは「アジアの併殺神」の異名を取る城戸に打たせて併殺に取る絶好の場面である。更に、ここまで城戸はバ軍エース紺野に全くタイミングが合っていなかった。という状況にも関わらず、バ軍首脳陣は9月の城戸の異常な高打率と首位打者狙いの汚いバントヒットを警戒して、敬遠を指示したのであった。
これにあからさまに不服そうな表情を見せる紺野。通算対戦打率でも1割を切るレベルの城戸を、何故敬遠しなきゃならない――その不満が、捕手が立って大きく外そうとしたのを制したところに、あからさまに滲み出たものである。
その様子を薄笑いを浮かべながら眺める城戸。タイムを要求してベンチに戻り、なぜかバットを交換。だらだらと歩きながら、勿体つけて打席に戻ったのであった――これで終わらず、一球投げる毎に。更に、わざわざ2回空振って「勝負しろやこの卑怯者」アピールまで挟む始末で、都合6度もベンチに引っ込んでは戻りを繰り返したのであった。
この煽り行為に球場からは大ブーイング、紺野もビーンボールを投げつけたい衝動を必死に抑える有様であったが、とにもかくにも、7球目を投じられたのであった。そして、球場に居た者たちは、信じられぬ光景を目にすることになる。
何と、城戸がバッターボックスぎりぎりまで踏み込み、中途半端な外し方ながら通常ならまず当たらないコースへの敬遠球を、物の見事にバットに当ててしまったのである。
これには茶番敬遠劇にうんざりしていたバ軍守備陣も完全に虚を突かれ、三塁線に転がったゴロ処理のが二拍も三拍も遅れてしまった。これが結局内野安打になり、城戸の後ろで5番を打つ綿貫がしぶとくセンターを抜いて勝ち越しに成功。この1点をイ軍エース相原が完封で守りきり、優勝へ向けて1試合も落とせないバ軍に、痛すぎる土をつけたのであった。
試合後、城戸は今日の勝利の真の立役者である裏商人ことリバースと祝杯を上げたのであった。
「紺野の野郎、ナメくさりやがって中途半端な距離で敬遠するからこうなるんだよ。これはイケると思ったら案の定だ。完全に逆上しちまって、俺が1球ごとにちょっとずつ長いバットに代えてたのに、全然気付かねえんだもんな藁。やっぱ持つべきものは使える違法用具の調達屋だな藁藁」




