【チョ・マテヨ編⑧】画伯対スパイ野球
イ軍エース相原が登板したサ軍―イ軍戦。
相原の力投で0-0のまま9回まで持ち込んだイ軍であったが、その相原が打球を左足に受けて大事を取って降板した事で、俄かに雲行きが怪しくなったものである。
「ちょ、待てよ! 聞いてねえよ!」
と、急遽リリーフで登板した北朝鮮系ベネズエラ人チョ・マテヨが、ヒット四球死球で瞬く間に無死満塁の一打サヨナラ大ピンチを演出。捕手の綿貫、そしてイ軍内野陣がマテヨを落ち着かせようというのは建前で、マテヨのテンパりぶりを鑑賞しようとマウンドに集結したのであった。
「サインが盗まれてる。奴ら俺が何を投げるか全部分かってやがるんだ」
と、ある意味期待通りのとんでも言動を連発するマテヨ。
んなワケねえだろ、お前の球がショボ過ぎるだけだろ。
と、誰しもが笑いを堪えながら心中で突っ込んだその瞬間、マテヨが謎の行動に出たものである。何と、マウンドに座り込み、砂をいじくり廻し始めたのである。
「おい、この期に及んで何をイジけてやがんだ!」
たまらず突っ込むイ軍内野陣。
しかし、それに逆ギレするでもなく、マテヨは不敵な笑みを浮かべたのであった。
「まあそう怒るなよ。別にイジけてるワケじゃねえ。ここにサインを書きゃあバレねえだろう」
そう言われて眺めてみれば、確かにマテヨのクッソ下手な絵で、球が落ちている様子が描かれている――要は、フォークのサインなのであった。なるほど、文字で書きゃあ相手チームのスパイ連中が解析できぬ事も無いが、絵ならばまず不可能だろう。マテヨにしては考えてたものである。
そうして、イ軍内野陣が、無駄に絵の出来栄えにこだわったマテヨを地面から引き剥がしてから試合再開。マテヨは通常のサインで直球と偽装して渾身のフォークを投げ――――損なったのであった。
マテヨが念入りにマウンドに落書きしてしまった結果、投球時に緩くなった土に足を取られて万事休す。渾身の一球はフォークも糞も無く暴投と化し、サヨナラゲームセットとなったのであった…。




