優しさでビジターデビュー
「たけし、元気かい?」
「うん、かーちゃん、遂に1軍決まったよ」
「本当かい!? プロになってから7年経って、もう駄目かと思ったけどねえ…。よかったよかった…。新宿スタジアムなんだろ? かーちゃん駈けつけて応援してやるよ」
「いやそれがさ、広島で投げる予定なんだよ。新宿で投げる事になったらまた連絡するからさ」
「そうかい、お前のチームはやっぱり厳しいんだねえ。慣れてる新宿でデビューさせてくれてもいいだろうに」
「いや、今回は逆に気を使ってもらってるんだよ。ウチはホームの方がキツイからさ」
「どういう事だい? 自分ところの球場の方が応援してくれるだろ?」
「……ま、それはいいや。かーちゃん、横安さんとこでテレビ見られるからさ、俺のデビューはそこで見てくれよ」
「分かったよ。たけし、頑張るんだよ!」
一軍デビュー報告をかーちゃんに電話した森岡は、ホッと息を付いた。
今回、広島登板で助かったのは、ブーイングが少ないという他に、もう一つ理由がある。それは、かーちゃんがイ軍ファンと揉める事を回避出来たという事である。
森岡にブーイングとなれば、かーちゃんは絶対に黙っちゃいまい。老いたりとはいえ空手5段のかーちゃんである。ガチファイトになった場合、何人のファンを病院送りにしてしまうか…考えただけでも恐ろしい。しかし、自分が一軍に定着すれば、避けられない事態でもあり…。
ようやく手にした一軍の椅子であったが、森岡にとっては、実に悩ましい事態を巻き起こしてもいたのであった。




