【城戸編100】ハーフスイング打法
シーズン終盤、首位打者を狙うイ軍の4番こと「帳尻の鬼」城戸が、新打法を編み出した。
そんな噂が実しやかに流れたものであるが、「どうせトバシの新スポを巻き込んだヤラセだろ」と、誰もまともに相手にしなかったのであった。
だがしかし、閑古鳥が鳴くイ軍本拠地新宿スタジアムでの試合、数少ない暇人、いや、観客たちは、歴史の生き証人となったのである。
それは1回裏、1死1・2塁の場面で訪れた。
首位打者のタイトルがチラつき始めると、長打が求められる場面でもみっともないくらいバットを短く持ってヒット狙いに走るのが常の城戸であったが、この日は違った。バットを目一杯長く持ち、「ホームラン、狙ってます」と言わんばかりに、ブンブンと大振りのスイングを見せたのである。
果たして、打席に入った城戸は2球目まで猛烈なスイングで空振り。さすがにバントは無いと見た相手チームであるホ軍守備陣は、通常のシフトを敷いたのであった。3球目も城戸が猛烈なスイングを見せたところで、ホ軍の方針は、当たったかに見えた。
ところが、である。
城戸がスイングしたバットは途中で勢いが完全に殺され、ボールはバットに当たって三塁線を転々。結果的にバントのような形になったのである――いや、結果的にではない。城戸が意図的にハーフスイングでバントを繰り出す、意表を突いたハーフスイング打法なのであった。
「城戸の野郎、やたらハーフスイングの練習ばっかやりやがって打てない投手から四球を取る為かと思ったが、これがやりたかったのか!」
城戸の珍妙な打法に大爆笑するイ軍ベンチ。
裏をかかれたホ軍守備陣であったが、それはイ軍の走者も同じであった。
「分かり辛えんだよ!」
と毒づきながら一塁走者が二塁で楽勝アウトになり、ホ軍の慌て振りをちんたら走って鑑賞していた城戸自身も一塁で間一髪アウト。新打法を使いながらも結局併殺に倒れるという、城戸らしさが前面に出た結果となったのであった。




