敗戦処理の鬼
春先のサ軍―イ軍戦。
イ軍先発マテヨが5回4失点とマテヨにしては好投し、球数100球越えで目に見えてバテてきたタイミングで、イ軍が誇る稽古場横綱こと外岡がリリーフ起用されたものである。
6回頭からの登板となった外岡であるが、キレのあるスライダーを軸に内角を突きまくる攻めのピッチングを展開。6、7回と三者凡退に斬って取り、ダラダラした打撃戦の様相を呈していた試合を一気に引き締めたのであった。
さて、球数が少ない事もあり、ベンチで外岡が8回も続投という打ち合せが終わった直後のタイミングである。
「おう外岡、勝っててもフツーに投げられるんじゃねえか。いつもこの調子でやりゃあいいんだよ」
と、イ軍最大の不良債権――いや、主砲の城戸が外岡に突っ込んだものである。
これに対し外岡は鳩が豆鉄砲喰らったような顔になり、首脳陣は「おいコラ!」と、城戸を一喝。
途端に真っ青になり震え出す外岡に対し、
「いやあ、どうも電光掲示板の調整が上手くいってねえみたいで…。実はお前が登板してた時からこっちが勝ってたんだよなあ。まあ余計な事は考えず、フツーに放れば大丈夫だろうよ」
と、必死こいてフォローするピッチングコーチ。だが、外岡の様子を見れば、もうどうにもならないのは一目瞭然であった。
「全くお前は何て事しやがんだ! 球場の設備担当に金積んで、外岡が眺める時だけあっち(電光掲示板)の得点いじらせてたのによ!」
ミーティング時、瞑った目にメイクを施し居眠りして何も聞いていなかった城戸のお蔭で万事休す。
こうして、プレッシャーのかからない楽な場面でしか好投できない「敗戦処理の鬼」こと外岡は8回に滅多打ちを喰らい、イ軍の勝利はマテオの白星と共に敢え無く散っていったのであった。




