【城戸編93】諸刃の偽装スクイズ
シーズン終盤、サ軍―イ軍戦。サ軍松木とイ軍城戸の首位打者争いは、いよいよ佳境に入っていた。
試合は3回裏、イ軍の攻撃である。一死満塁の状況で打席には4番城戸――なのだが、チャンスで一本欲しい場面にも関わらず、何と一塁線に向かって予告バント()の構えを見せたものである。適当に打ってお得意の併殺よりはマシかも知れないが、この場面でのスクイズなど、少なくとも4番のやるプレーではない。
ともあれ投球が始まるや、一塁を守るサ軍松木が猛ダッシュで向かってくるが――城戸はバットをギリギリでバットを引っ込めたものである。このスクイズ偽装をフルカウントになるまで繰り返し、ベテランでスタミナに難のある松木は目に見えて消耗してしまったのであった。
「クックック、ご苦労さん。優勝争いしてるチームは大変だなあ。さっきのダッシュで疲れて首位打者が犠牲になっちまうかもなあ」
結局四球で歩いた城戸は、一塁上で松木にドヤ顔で絡んだものである。
松木にとってはサ軍が1試合も落とせない状況で優勝争いをしており、守りで手を抜けないのが不幸であった…
と、思いきや、人生何が幸いするか分からない。
城戸が一塁線に向かって偽装スクイズやってた時の三塁ランナーが、イ軍先発投手のマテヨだったのである。
城戸の打席で1球ごとにホームへダッシュしまくりで松木以上に完全にバテていたマテヨは、次の回で棒球を連発。物の見事に大炎上し、松木に1イニング2安打を浴びて首位打者獲得をアシストしたのであった。




