【チョ・マテヨ編⑤】陰のMVP
梅雨時のマ軍―イ軍戦。
試合開始数時間前には既にかなりの雨が降っており、予報でも酷くなる一方である見通し。だがしかし、主催側であるマ軍は試合開催を主張。イ軍側の猛抗議で審判が態度を硬化させた事もあって(イ軍監督不二村はこの段階で退場を喰らった)、雨中で試合が強行される事になったのであった。
マ軍首脳陣は、
「ここで試合中止してイ軍戦を9月に廻されちゃかなわねえからな」
と、ドヤ顔で胸を撫で下ろしたものである。
そう、9月、というよりも最下位が確定して消化試合をこなすだけの状態になったイ軍は「アジアの無駄打ち王」こと4番城戸を筆頭に、意味も無く手強くなるのである。優勝争いをしているチームにとってはこの上なく厄介な存在となる為、マ軍のような優勝候補チームとしては、可能な限り9月に当たりたくない相手なのであった。
さて、試合はマ軍先発がエース館野、イ軍先発がチョ・マテヨでプレイボール。
「とっととマテヨを打ち込んで5回でサッとコールドにしちまおう」
イ軍憎し(正確には不二村憎し)でマ軍寄りの審判とも裏で話がついており、色々な意味でマ軍必勝態勢は整っていたのであった。
ところが、事態は想像の斜め上の展開を見せる。
雨中の試合でボールが手につかないマテヨの制球が全く定まらず、派手な暴投を連発。際どい球も、正捕手綿貫が「こんな糞試合で怪我でもしたら誰が責任取ってくれんだ?」と言わんばかりの不貞腐れた態度で全く追おうとせず、マ軍に点は入ったものの、試合が遅々として進行しないのであった。
結果、遂にはグラウンドが水浸しになってしまい、マ軍打線がどんなに外れてようが全球スイングしてやらせ三振する必死の時短工作をカマしたものの、5回コールドを目前にして試合中止。ノーゲームとなってしまい、マ軍はエース館野を浪費した上に風邪まで引かせてローテーション2回飛ばしで深刻な戦力ダウン、更には結局9月のイ軍戦が増えてしまうという最悪の結果となってしまったのであった…。
このシーズン、最終的にバ軍がマ軍を0.5ゲーム差で振り切りペナントを獲得。館野がローテを2回飛ばさなければどうなっていたか分からず、マテヨはバ軍ファンから「陰のMVP」として讃えられたのであった。




