【相原編⑤】泣きの代償
毎度マ軍打線が大爆発する事で「新宿大虐殺」と呼ばれる、イ軍本拠地東京新宿スタジアムにおけるイ軍―マ軍戦。
今宵の試合もマ軍打線の打ち上げ花火ショー、もといホームラン乱発を見物にやってきたマ軍ファン連は、完全に肩すかしを喰らっていたものである。イ軍先発、3年目左腕の相原が、7回まで10奪三振の0封とマ軍打線に立ちはだかり、0-8でイ軍リードと、通常とは真逆の展開になっていたのであった。
しかしそこはイ軍のイ軍たる所以、そのままで行くはずも無かった。
7回裏、イ軍相原の打席でショートに微妙なゴロが飛び、相原はこれを全力疾走するも間一髪アウト。
この大量点差での相原の全力プレーが、マ軍の勘違い主力野手陣の激怒を買い、
「こんな点差がついとる場面で何やっとんじゃワレェ!」
と、一塁に座る主砲金井を始め、集団恫喝を展開したのであった。
これに対して相原は一瞬殺気立った表情を見せたものの、軽く頭を下げてベンチに下がった。
そして、8回表も続投でマウンドに立ったのであるが――――その眼には、涙が光っていたのである。
折しも、打席にはタイミング良く(?)先程の恫喝首謀者の金井。
「カーッ、あんなんで泣くぐれえなら最初からわきまえろっつーの!」
と、悪態をつきながらも、恫喝が存外に効いた様子の相原に邪悪なご満悦顔であった。
その金井の様子に更に動揺したものか、制球がいいと評判の相原であったが、ストライクが全く入らない。瞬く間にノースリーとなり、投球リズムを完全に崩壊させてしまっているのであった。
「おいおい、もう替えてもらった方がいいじゃねえのかぁ?」
余裕ぶっこいて相原に罵声を浴びせる金井。
その刹那、相原がクイックモーションで放った150kmの速球が金井の左手甲を直撃。完全に油断していた事でほぼ全く避けられなかった事もあって複雑骨折、全治6か月で今シーズン絶望の診断が下されたのであった。
「まあ故意じゃないんでね。直前で泣かされてたもんで(笑)、球がどこに行くかは自分でも分かりませんでした。金井さんには頭に行かなかっただけ良心的と思ってもらいたいですね。まあ故意じゃないですけどね(笑)」
試合後、平然とした顔でコメントした相原の手には、お約束の目薬が握られているのであった…。




