【マウンドの詐欺師 神崎編⑬】魔球スパイス
9回表、2死満塁。
迎えるバッターは、目下セリーグ打点王の、当たりまくっている5番打者。
1点差でリードしながらも、イ軍先発神崎は窮地に追い込まれていた。
「だから何で交代しねえんだよバカヤロ!!!!」
と、ホームのファンからブーイングの大合唱。
例によって、完投に異常なこだわりを持つ神崎が再三の降板指令を拒否し、ズルズルと投げ続けた挙句に勝ちを逃しそうな事態に、イ軍ファンが怒り狂っているのであった。
と、神崎、何を思ったか審判にタイムを要求。ホーム側内野スタンドへ向かうと、中年男性ファンに向かって、何事かを激しく捲し立てたものである。普段、滅多にファンとトラブる事がない神崎の異例の行動に、球場がどよめいた。
ピンポイントで神崎に噛み付かれた中年ファンも、一瞬怯んだもののすぐと逆上し、持っていたホットドッグを神崎に投げつけたものである。イ軍内野席は「エキサイトシート」と銘打ってボールを遮るものが何もない状態となっており、ホットドッグは神崎へまっしぐら、しかしこれを右の手刀で叩き落とし、神崎はマウンドへと戻って行ったのであった…。
試合後、先述の中年男性ファンの元へ、神崎が現れたものである。
報復を警戒するファンに向かって、神崎はにこやかに礼を述べたのであった。
「いやー、さっきはすんませんでした。あの場面で喰い物系を持ってる人で、あなたが一番に目についたもんでね。私に向かってしっかりホットドッグを投げてくれたおかげで、試合に勝てましたよ。しかしケチャップとマスタードを擦り込んであんだけボールがキレるなんて、投げた私も驚きましたわwwww」




