指名劇場
エース相原の力投で、9回裏時点で5-2、イ軍リード。
クローザーの矢車が出る最高の勝ちパターンで、しかし終わってみれば5-6×のサヨナラ負け…。
死球とヒットで無死1、3塁のピンチを迎えつつも2死満塁まで漕ぎ着け、打席には怪我と大不振で引退の危機に直面している元スターの佐井。足がフラフラで満足にバットが振れない状態の彼を見て、
「こいつぁ安牌だ」
と、呑んでかかった矢車の中途半端な速球を、佐井がフルスイング。
打球はスタンドへライナーで突き刺さり、ダ軍ホームは狂喜の渦に叩き込まれた。
「あれ以上の勝ちパターンはねえよ。最悪の負け方だな」
イ軍監督不二村もそう言うのがやっと。
普段は「選手に任せてるんだからな。こういう事もある」と、余裕ぶるのだが、今日の試合後はショックがありありと見て取れた。
GM柳澤が介入するため制約の多いイ軍監督業であるが、特にクローザー矢車起用は厳命事項であった。矢車は、最終的に抑える事が多いとはいうものの被安打や四死球の多い、いわゆる「劇場」タイプのクローザーで、終盤まで客の興味を切らさない、経営側にとっては非常に貴重な存在なのである。
セーブ数や防御率などの数値で見ればそれほど悪い投手ではないのだが、たまにこういった劇的な負け方をして、チーム全体に心理的なマイナスの影響を及ぼしてしまう。差し引きで考えればクローザーを外す事も検討に値するのだが…。采配を超えた部分での選手起用とはいうものの、クローザーの不安定さは不二村監督の最大の悩み所の一つであった。




