【綿貫編⑧】ゴネゴシエーター
イ軍正捕手、綿貫の契約更改日。
今季の綿貫は怪我の影響から不慣れな一塁を守る事が多かった影響か、打撃成績は2割3分2厘、8本塁打、34打点と、自己最低レベルの数値。しかしながら、勝利打点11と勝負を決める場面では悉く打っており、契約交渉ではその点を強行に主張してくるものと思われた。
(あの野郎、毎度ゴネまくってホント面倒くせえんだよなあ)
綿貫と言えば球界一の「ゴネゴシエーター」として悪名高く、交渉に当たるイ軍フロント陣は、始まる前から疲れた雰囲気を漂わせていたものである。
果たして、綿貫の契約更改交渉が始まった。
挨拶もそこそこに、綿貫が取り出したのは、数百ページにも渡る分厚い資料である。
(おいおい、これ全部自分の事書いてあんのか?)
と、思いきや、綿貫含む、イ軍全選手の資料であった。それぞれ、今季いかに駄目だったかが厳しく査定されており、そんな中で「不慣れな一塁を守った点、勝利打点11の勝負強さ」で、自作自演の貢献度爆上げ判定の綿貫が、いかに年俸アップに相応しいかが力説されているのであった。
イ軍選手の中では例外的に勝負強い綿貫であるが、同僚の年俸を下げてでも自分の年俸を上げようとするとは…。ある意味でプロに徹していると言えなくもないが、こんなのが正捕手やってちゃ若手は育たねえだろうなあ。そう危機感を募らせるイ軍フロント陣であった。
「それで、結局綿貫の年俸は上げなかったんですよね?」
「いや、面倒臭かったので、5分くらい話を聞いたところで3000万アップで手を打ちました。しっかしウチもあんな奴がレギュラーでいるうちは勝てないでしょうね」
イ軍フロントへの取材で、テキトー過ぎる回答に思わず天を仰ぐ新スポ尾藤。
立場上自分には出来ない「勝てねえのはお前みたいなのがフロントにいるからだよ!」 という渾身の突っ込みをイ軍ファンに遂行させるべく、一面記事の作成に取り掛かるのであった…。




