【城戸編59】アンチ製造機
某日デーゲーム、イ軍―マ軍戦。
本日も例によってイ軍の火薬庫(先発陣)の一角、遠井が序盤で大爆発。0-11と3回の時点で勝負が決まった事もあり、マ軍は早々に主力を引込め、若手バッテリーを試し出す始末であった。
そんな中、「平成の帳尻王」ことイ軍の4番城戸が打席に立ち、マ軍の2年目キャッチャーにアドバイスをしてあげたものである。
「おい、そこに構えるとミットの陰が見えて、どこにボールが来るのか分かっちゃうぞ。もっと左に寄せた方がいいんじゃないの」
「あ、はい! ありがとうございます!」
いくら悪名高いとはいえ、プロ野球歴20年の大ベテランから声を掛けられて、マ軍の2年目キャッチャーは思わず舞い上がってしまった。更に、城戸のアドバイスが存外に親切だった為、事前のイメージとのギャップで、とんでもなくいい人に思えてしまうのであった。
そして城戸のアドバイス通り、外角にミットを構え――
城戸が踏み込んで強振し、打球はスタンドへ消えていったのであった。
大差で負けている展開にも関わらず、空気を読まずに「してやったりヒャッハー」とばかり、派手なガッツポーズでベースを一周する城戸。それを呆然と見送るマ軍の2年目キャッチャー。
苦手の内角を回避し得意の外角に投げさせて一発放り込むという、純粋な若者を騙くらかした、技有りの一打であった。
「あの野郎…………っざっけんなよマジで!!!!」
こうして城戸は、ホームラン一本と引き換えに、新たな熱烈アンチを産み出したのであった…。




