ブーイングの代償
「不二村! 何であそこで神崎に代打を出さねえんだ!」
今日も今日とて神宮のルーザーズロードは燃え盛っていた。
ビジターロッカーから球団バスまでの約20メートル。短い距離ではあるが、ファンが非常に近く、客席から身を乗り出してはあれやこれやと捲し立てる。この場所ほど、「勝てば官軍、負ければ…」を如実に表す場所もないだろう。
特に今日は、惜しいところでの敗戦とあって、イ軍ファンたちも一際荒れていた。罵声の主な標的は、9回を一人で投げ抜いたものの結局サヨナラ負けを喫した投手神崎、そしてリリーフを出さなかった監督不二村が主な標的である。
神崎に関しては9回4失点とギリギリ許容範囲と言えぬでもなかったが、リリーフを出さずしてチームを敗戦に導いてしまった不二村に対しては憎悪120%。采配から私生活まで、ありとあらゆるネタを繰り出しブーイングを浴びせたものである。
「おいコラ、降りて来い!」
さすがに我慢の限界を超えたか、怒鳴り上げる不二村。
しかしそこは卑怯者の代名詞としても通用するイ軍ファン、スッと後ろに隠れ、誰が言ったか特定されないように人ごみに紛れこんだのであった。
「かーっ、どんだけ内弁慶なんだよこの野郎! わーった、あとで直接話してやるからここへ掛けて来いや!」
不二村、メモ紙に電話番号をしたため、その辺の大人しそうなファンに託したのであった。
その後、実際にブーイングしまくっていたファンが、変声機と録音装置を完備して不二村の携帯に電話したらしい。
しかし、電話は転送されまくって、不二村の知人なのか、怪しげな女性に繋がったとの事。
すわ女性スキャンダルかと、不二村の落ち度を逃すまいかと気合いを入れて長時間録音しつつ電話を切らずにいたのだが、結局何も起こらず。
一月後、当該ファンの元に海外エロダイヤルからの高額請求が届いてオチがついたのであった。




