【不二村監督編⑤】Tボード
イ軍に不二村監督が就任してからシーズン一か月を経過した頃、球場に「T」の形のボードが掲げられるようになった。
奪三振能力に優れた投手登板時に「K(三振)」ボードがよく掲げられているが、Tとは一体何なのか。
マスゴミの取材を受けたファンは、ドヤ顔で得々と語ったものである。
「は? そんなの退場のTに決まってんだろ。不二村の野郎、退場の世界記録を打ち立てそうな勢いだからな。もっとやれ! つって応援してやってんだよ」
そう、不二村は一軍監督就任一か月にして早くも7回の退場をマークしている上に、試合開始前のスタメン表交換の時点での最速退場、一試合2回退場(一度目の退場の後他人に成りすましてベンチ入り→判定に抗議で二度目退場)、対戦チーム監督とのアベック退場等、その内容もやたら濃いのが一部の物好きにウケまくっているのであった。
その流れから、不二村の退場についてあらゆる角度から分析するサイトまで立ち上がり、不二村が判定に抗議する際は、いつしかイ軍ファンから大歓声が送られるようになったのである。
「うれしいねえ。ファンの皆も俺の退場がチームの連中を鼓舞してるっつー事が分かってるんだな」
一人悦に入る不二村であったが、彼は何も分かっちゃいなかったのだ。
不二村が退場を喰らった試合は、糞采配から解放された影響か、イ軍の勝率が僅かながら高まっていたのである。
「よっしゃ不二村このまま退場しろ! これで今日は勝てる!」
そして今日も今日とて、イ軍ファンたちはチームを勝たせる為という大義名分の下、不二村の退場を煽りまくるのであった…。




