【マウンドの詐欺師神崎編⑪】敬遠投法
イ軍―マ軍戦。
「マウンドの詐欺師」ことイ軍神崎が先発したこの試合、8回表を迎えてスコアは5-5の同点。更に2死2、3塁で、マ軍打者はここまで3安打5打点の5番島倉と、一番の山場を迎えていた。
本日全打点を挙げて当たっている島倉を相手に、イ軍ベンチは敬遠を指示。
しかし、頭に血が昇っている神崎はあからさまに不服そうな表情を浮かべ、しきりにマウンドを蹴り上げる醜態を晒していた。
初球、捕手の綿貫がプレートを外して敬遠球を受けたのだが、島倉がバットを伸ばせば届いてしまう中途半端な位置で、危険極まりない。
「おい! これじゃ危ねえ! もっとしっかり外せ!」
あらん限りの大声で叫ぶ綿貫だが、神崎は完全に不貞腐れた態で、二球目も単なる外角へ棒玉を放ったものである。
「この野郎! こんな球じゃ打たれてヒットになっちまうだろうが! いい加減にしろ!!!!」
外せ外せと手を横に全力で振るジェスチャーを見せる綿貫。
「おいおい、こりゃマジで敬遠球打たれるぞ…………糞が!」
バシンとミットを叩き、危機感を露わに吐き捨てたものである。
果たして三球目、ヒーローになる絶好のチャンスと見た島倉は、思い切って踏み込み、中途半端な敬遠球をヒットして勝ち越し――とはならなかった。
踏み込んで打った位置から更にボールが1個分外れており、引っ掛けセカンドゴロでスリーアウト。イ軍は窮地を脱したのであった。
「ふーっ、危なかったぜ。俺のアカデミー賞級の演技のお蔭だな。島倉の野郎、俺達バッテリーで揉めてると完全に勘違いしてたからな」
「バーロー、勝負所で逃げるボールを放れる俺のネ申制球の賜物だっつーの」
全ては、神崎の敬遠を嫌がるところから仕組まれていたヤラセ。
神崎―綿貫のイ軍詐欺師バッテリーは、「俺の手柄だっつーの」と互いに譲らず意気揚々とベンチに引き揚げていったのであった。




