【綿貫編⑥】無限囁き
左手負傷で故障欠場中の正捕手綿貫の給料を、何とか無駄にしない方法はないか。
そこで捻り出された案が、綿貫の一塁コーチ起用であった。
当初、本人は面倒臭がって何のかのと理由をつけては全力で回避しようとしたのであるが、「将来の幹部候補生だろ」という空手形系殺し文句で、あっさりと翻意。かくして一塁ベース上に不穏な空気が漂う事になったのである。
それというのも、
「ほぉ~、そう守りますかあ…」「ぷっ、すげー無警戒ww あいつのバントは三塁線と見せかけて一塁線が多いのになあ…」「よぉ、昨日はザギンで派手にやらかしたらしいじゃねえか」「次の監督な、おたくのライバルで決まりらしいぜ…」
等々、プレーや私生活、監督の座レースのネタを延々囁き続けるからであった。相手が聴いていようがいまいが、お構いなし。これには対戦チームの一塁手も参ってしまい調子を狂わす者が続出、イ軍首脳陣にも非公式に抗議が入る程であった。
「ククク、俺の超采配が大当たりのようだな」
自らの妙手に酔っ払う監督不二村であったが、終わりは唐突に訪れた。
一塁に出塁し、盗塁を狙っていたイ軍リバースが、
「ウルセエ! チョットハダマテロ!」
と、綿貫の無限囁きに対して大爆発。
イ軍名物、味方同士の乱闘が発生し、このネタ采配は敢え無く封印されてしまったのである…。




