スパイ野球撹乱
シーズン途中、各球団の二軍を14年間転々としている無名の三塁手山本を、イ軍が緊急獲得。レギュラー三塁手の草加部を差し置いて、早速バ軍戦にスタメン起用されたものである。
一軍での実績が皆無の選手を、シーズン最下位回避せねばチーム解散という状況で何故使うのか。もう諦めてしまったのか。それとも八百長なのか。
「おい不二村ぁ! もう辞めろとは言わねえ! 死ね! 死んでくれ!!!!」
と、今回の謎采配には、ファンも熱過ぎるド直球のヤジをブッ込みまくったのであった。
果たして、山本起用の真相は、1回裏のイ軍守備の段階で早くも明らかになる。
イ軍先発投手のマリオが振りかぶった段階で、バ軍のスパイ野球コーチ居原が、
「スライダー!」
と球種を叫んで打者に伝達――と思いきや、
「やっぱストレート!」
被せるようにいきなり訂正したものである。
これには打者も大いに困惑、中途半端なスイングで一塁フライに打ち取られてしまったのであった。
一体何が起こったというのか。
愕然とする居原に、不敵なドヤ顔を向ける山本。
「くっくっく、野球が駄目でも、人間何か特技があるもんだ」
ベンチ内で会心の笑みを漏らす監督不二村、そして眼前で繰り広げられた間抜け過ぎる光景に爆笑するイ軍ナイン。
そう、野球選手としては三流以下の山本なのだが、たった一つ、居原と声が異常に似ているという得難い特徴を持っていたのである。最前の「ストレート!」コールは、山本が発したものなのであった。
「よーし、これでバ軍のスパイ野球を思いっきり撹乱してやれる。頼むぞ山本ぉ!」
発破を掛ける監督不二村に対して、サムズアップサインで返す山本であった。
※尚、山本の大声に余計に集中力を乱されたマリオが大炎上、イ軍は1-15で大敗したのであった。




