入社試験
東京スポーツ春採用、筆記試験。
問題用紙に出題された珍問を見た瞬間、私は目を疑った。
昨日のイ軍―ド軍戦で発生した乱闘写真が配布され、
「この写真を面白おかしく、なさそうでありそうな感じで脚色して記事風に書け。尚、イ軍選手についての記述は、球団側が選手との年俸交渉の資料として使うものと想定する(年俸を下げ易くなるほど高評価となる)」
と、あるのだ。
仮にも報道機関である新聞社が、こんなあからさまに「ネタ、作ってます!」という姿勢でいいのだろうか。しかも作話を年俸交渉のネタにするとは…。ある意味東スポらしくはあるのだが、それにしても、ここまで酷かっただろうか?
というところで、私ははたと気づいた。
問題用紙に印字されている会社名が、何かおかしいのである。
「東京 スポーツ」
のスペースの部分に、よくよく見ると異様に小さな文字で「新宿」と書いてあるのだ。
「おいおい、何だこりゃあ! ここ東スポじゃねえぞ!?」
私は思わず声を上げてしまったが、他の就活生連中も何人か気付いていたものらしい。
一体これはどういう事なのか。
何人もの学生が試験官に詰め寄ったが、涼しい顔でのらりくらりとかわしまくるばかり。
試験要項が書かれたハガキは「東京スポーツ」となっており、「これは社名詐称だろ!」と突っ込まれても、「いやあ、今日誤植のお詫び通知を出すお渡しする予定でして」と、全く話にならない有様であった――。
東スポと偽って、優秀な学生を入社させちまおう。
“トバシ記事界のコルクバッター”こと東京新宿スポーツ――弱小新聞ならではのゲリラ的採用活動に、私は社会の厳しさを垣間見た気がしたのであった。




