デスブルペン
真夏の晴天デーゲーム@東京新宿スタジアム。
イ軍と対戦するマ軍の右翼手は、打撃優先オーダーで無理やり守備に就かされた本職一塁手の岩井。
外野守備はほとんど経験が無いながらも、何とか無難にこなしていた岩井だったが、4回裏に悲劇は起こった。
イ軍の綿貫が左打席から右翼に放った大飛球を、太陽の光をまともに目に入れてしまい、見失ってしまったのである。その後、打球がフェンスに直撃したのと、一塁塁審がフェアのジャスチャーをしているのは辛うじて分かったのだが――ボールを完全に見失ってしまった。
「おい、ベンチの下に入っちまったぞ!」
右翼側のイ軍ブルペンから、慌てたがなり声が聴こえた。見れば、イ軍のリリーフ陣が総出でボールを探しているのであった。
不慣れな外野守備にビクついていた岩井は、ある意味でホッとした。ボールがブルペンに入っちまったのなら、エンタイトルツーベースだろう。クッションボールの処理などやった事がないし、こうなってくれてむしろ助かった。あとは審判が試合を止めるのを待つばかりだ――。
と、思いきや、試合はそのまま進行し続けたのである。
全く動く気の無い岩井を見て血相変えて突進してくるセンターの坂口、そして楽勝で本塁まで帰ってきてしまったバッターの綿貫……。
唖然とする岩井に対して、
「おい! 何でボールが真横にあんのに捕らねえんだ!!!!」
と、怒鳴り上げた岩井の声は、まんまとボール探しの偽装に成功したイ軍リリーフ陣の大爆笑、そしてイ軍ファンたちの岩井コールによって掻き消されてしまったのであった…。




