殉教阻止
――某月某日。
上級幹部が集結した極秘のミーティングで、私は懸命なプレゼンを実行した。
曰く、このままでは“彼ら”が危ない。
平時は秘密を抱えて生きる“彼ら”であるが、その存在が露見してしまうと、一体どうなってしまうのか。
私は“彼ら”が遭遇した事例――村八分にされた者、家族に縁を切られた者、そして婚約解消を喰らった者――を取り上げ、必死に訴えた。
何もしない事で定評のある上級幹部たちもさすがに事の重大さが分かったのか、その後の議論では、改めて問題への対策が検討されたのであった。
「うーむ、しかしイ軍ファンって事がバレただけで、そんなに大変な事になるもんかね? 私が球団社長に就任した時は、家族には何も言わなかったがなあ」
「社長、それはご家族と普段から全然会話してないし、する機会も無いからというだけでは…」
「ワハハ、まあそうかもなwwww」
「しかし、ウチの球団なんかにハッカー? と言うのかね? が攻撃してくるとは未だに思えないんだが…。どうせロクな情報なんかありゃしないんだし」
「チームの大事な情報は不二村監督が自分からベラベラ喋ってますしね」
「いやいや、我々の接待費がバレるとちょっとマズいですぞwwww補強に廻せって絶対文句言われそうwwww」
上級幹部たちのガバガバ過ぎる会話を聞かされながら私は思わず天を仰いだのであるが、とにもかくにも、これでようやくイ軍球団のサイバーテロ対策が予算化されたのであった…。




