【城戸編38】転んでもタダでは起きない
“ヘッドハンター”ことビーンボールが決め球のイ軍先発矢車。
彼が先発する試合は、高確率で何かが起こってしまうのであるが(起こしてしまうと言った方が正確か)、本日も不穏な空気が漂っていた。場面は6回表無死2、3塁でサ軍四番グールドを迎えた局面である。それまでグールドから二打席連続ホーマーを被弾していた矢車は完全に頭に血を昇らせており――――大方の予想通り、際どい内角球を連発した後に、グールドの頭部スレスレにまで投げ込んでしまったものである。
これには普段紳士で通っているグールドも激怒、
「生意気な矢車をシめてやるッ!」
とばかりにマウンドに突進し、両軍入り乱れる大乱闘が勃発したのであった。
普段からビーンボールに悩まされているサ軍ナインも、グールドを止めるポーズを取りながら、ここぞとばかり矢車に突進し、ボコりまくるのであった。
「おいやめろ! 俺をやってどうすんだコノヤロ!」
等とみっともない言い逃れをする矢車にヒートアップするサ軍ナイン。
ややあって、イ軍ナインが嫌々ながらお義理で矢車を救出した際は、フルボッコ状態でボロボロになってしまっていたのだった―――――――――――矢車ではなく、城戸が。
薄れゆく意識の中で、城戸はおぼろげに記憶を辿っていった。
そういやあ6回守備に就く直前、球団スタッフに茶をぶちまけられ、渡されたユニフォームに着替えたものだが――――――うつ伏せになって倒れている城戸の背中には「背番号22 YAGURUMA」の文字が縫い付けられていたのであった。
哀れ、長身肥満体の体型が被っていた事で矢車にハメられた城戸は、しかし「これ俺が意図的にかばったことにすりゃあ美味しいんじゃねえか」と、マスゴミへの煽りコメントを考えながら、意識を失っていったのだった…。




