【城戸編36】仁義なき首位打者争い
9月も半ばに入り、サ軍松野、イ軍城戸によるセリーグ首位打者争いも、いよいよ最終段階を迎えていた。
おそらくここでタイトルがほぼ確定するであろうというサ軍とイ軍の直接対決3連戦。その前夜にマスゴミからインタビューされたサ軍監督塚田は、
「明日からの3連戦、城戸と勝負するのか?」
との質問に、
「あらゆる可能性がある。その時になってみないと分からない」
と、はぐらかしたのであるが、その実、城戸を全打席敬遠して、松野に首位打者のタイトルを獲らせる腹積もりなのであった。松野に自信をつけさせる意味もあったが、10年前の現役時代、城戸の汚いバントヒット連打で塚田自身が首位打者をさらわれた苦い過去がある。その事もあって、今回こそは絶対に城戸に一泡吹かせなければ気が済まないのであった。
翌朝。
いつもの習慣で宿舎周辺を軽くジョギングしていた塚田の携帯に、
「感動した!」
「あんたはスポーツマンの鑑だ」
等々のメール・電話が殺到したのであった。
―――一体何が起こった?
どうやら連絡をくれた知人連中はみな今朝の新スポを読んだものらしいのだが、塚田には何の事か全く分からない。
慌ててコンビニに駆け込み、新スポ一面を読んだ塚田は、
「やられた!!!!!!!!」
思わず絶叫したのであった。
「『城戸と勝負する』病床少年の夢かなえる 球界一の紳士サ軍塚田監督」
そう特大文字が打たれている新スポ一面で、不治の病で余命いくばくもない城戸ファンの少年が、
「結果はどちらでもいいんです。でも、死ぬ前に、城戸選手が正々堂々と戦って首位打者を目指す姿が見たい。塚田監督、勝負してくれると言ってくれて本当にありがとうございます。やっぱり塚田さんは球界一の紳士です…」
と言って塚田に感謝しているという内容の記事が掲載されているのであるが、当然こんなものは200%ヤラセ(記事自体と城戸の少年ファンがいるという点で2回分ヤラセ)である。
だが、球界ではクリーンな紳士で通っている塚田のイメージもあり、世間のトーシロ野球ファンたちは完全にコロリと騙されてしまったのであった。
念のため球団公式フェイスブックやツイッターを確認してみれば、今の段階ですら、先述の新スポ一面に関連して、とんでもない件数の「いいね!」がついてしまっている。こうなってしまっては、あからさまな敬遠など、とても出来るものではなかった。
おそらくは、いや、間違いなく城戸が新スポと結託して今回の記事を仕掛けたのであろう。
「あの野郎! 汚い真似しやがって!!!!」
コンビニの客がビビりまくるのもお構いなしに、超デカい声で思わず吐き捨ててしまう塚田。
イ軍投手陣は城戸憎しでタイトルを獲らせない為に、まず松野を敬遠する事などないであろうが、問題は城戸である。チャンスでは全く打てないくせに、こういった個人タイトルが絡む状況では無類の勝負強さを発揮する城戸の事だ、松野が初タイトルを前にして硬くなっている事もあり、このままではおそらく――――。
それだけは絶対に阻止せねばならない。
塚田は投手コーチを叩き起こし、先発変更を指示。制球難で球がどこにいくか分からない、「自然な死球を演出できる」興野を立てて、城戸との死闘に挑むのであった。




