【城戸編32】首位打者争いの真の壁
9月に入り、ペナントレースと共にタイトル争いもいよいよ佳境を迎えつつあった。
セリーグの首位打者争いは、サ軍三木、イ軍城戸の二人に絞られ、抜きつ抜かれつの激しいデッドヒートが展開された。
シーズン通して優勝争いを繰り広げたサ軍で、徹底マークに遭いながら貴重な場面でのヒットを量産する三木。
そして、春先に大不振でチーム沈没のA級戦犯でありながら、プレッシャー皆無の消化試合になって猛然と無駄に打ち出しただけの城戸。
どちらがタイトルに相応しいかは一目瞭然であったが、とにもかくにも、両者打ちまくり、全く予断を許さない状況なのであった。
三木は人格者としても知られており(反対に城戸は球界有数の鼻つまみ者であった)、こうなってくるとNPBタイトル争いのお約束、醜い敬遠合戦が予想された。
事実、サ軍始めセ5球団は、「城戸にタイトルを獲らせてなるものか」と密約でも交わしたのか、城戸が得意とする投手が、どうでもいい場面ですら露骨に敬遠をしてくるようになり、首位打者獲得に向けて暗雲が立ち込めたのであった。
そんな中、普段のノリからすれば速攻で三木をビーンボール攻めにしそうなイ軍投手陣であったが、意外や意外、三木に対して何かやらかす事もなく、クリーンな勝負に終始したのであった(そして滅多打ちにあったのだった)。
“イ軍、ついに改心!”
と、イ軍投手陣が三木に対して真っ向勝負を挑んで3安打1ホーマーを喰らった翌日、新スポが面白おかしく1面でぶち上げたものである。
しかし何の事は無い、投手が苦しい時に全く援護しない、逆に致命的エラーをやらかす城戸に対して、イ軍投手陣も他5球団と全く同じスタンスで動いているだけなのであった…。




