イ軍、知らない間に他球団選手のやる気を出す
「紳士たれ」球団ド軍で内紛勃発。
今シーズンから頭角を現した天才バッター阿藤と、球団生え抜きで長く主砲の座にあった打撃コーチ佐古が、激しく衝突しているのであった。
曰く、好球必打で超早打ちの阿藤が、もっと球をじっくり見ろと待球を強要する佐古に従わず、反発しているというのである。
しかし、阿藤が3割30本塁打を狙える逸材といえども、現役時代大スターで、チームの至宝である佐古に楯突くのは、いかにも分が悪かった。
次期監督が半ば確定している佐古を敵に回して、球団内部では誰も阿藤の味方になってくれず、彼は完全に孤立してしまったのだった。
もともと気分屋でもあり、あからさまにやる気を無くした阿藤の打撃成績は急降下。更にはトレードの噂が出るに至って、阿藤のド軍でのキャリアは風前の灯火と思われた。
だが、トレードネタが新聞を賑わすようになってからというもの、阿藤は突如転身を遂げる。
何と、あれだけ嫌がった待球をこなし、騒動前とは別人のような打撃になってしまったのである。打率も3割台まで持ち直し、ド軍の若き主砲として、以降10年間、3番に座り続けるのであるが、それはまた別の話である。
一方その頃、ド軍球団事務所。
「今回の件、トレード話が効いたな」
「はい、それまでは何を言ってもダメだったのが、阿藤は一気に人が変わったようになりましたからね」
「話には聞いていたが、選手は絶対行きたくないんだなあ…。まあ『球界の姥捨て山』とか言われてるもんな」
「そうですね。これからもチーム方針に従わずにゴネる選手には『イ軍に出すぞゴルァ!』と脅して対処する事にしましょう」




