イ軍流通訳採用面接
イディオッツ球団事務所で、通訳の辞職に伴う補充の面接が行われていた。
受験者はイ軍に似つかわしくない超一流大卒の、爽やかなイケメン。プレー経験こそ無いものの、野球への造詣が深く、まさに理想の人材であると言えた。
「うーむ、素晴らしい。君ほどの人はなかなかいないよ」
「いや全く。是非ウチに来てもらいたいね」
海外担当スカウトの久井とヘッドコーチの桜井が、イケメンをほめそやした。
「ありがとうございます。必ず球団の力になります」
イケメン、若干のテレを匂わせながらも、堂々と答えたものである。
「それでだ、最後に一つテストが…」
桜井が言い終えるか終えないかのタイミングで、突然、凄まじい勢いでドアを叩き開けて、アームブリスターが室内に乱入してきた。極度の興奮状態で、桜井を指差しながら、何事かを大声で捲し立てている。
久井は「おいブリ、落ち着けや」と日本語でなだめ、桜井はアームブリスターを一瞥しただけで、平然と茶を啜るのみ。二人の薄い反応がアームブリスターの神経を逆撫でしたか、彼はますますヒートアップしていきファックファックの大絶叫である。
「ちょうどいい機会だ。ちょっと通訳してみてくれないか?」
桜井はイケメンに頼み、我に返ったイケメンは、必死にアームブリスターの罵詈雑言を訳し始めた…
「うーむ。経歴は申し分無いんだがなあ。オレとしては取りたいんだけど…」
「いや、あれはダメだよ久井さん。アドリブが効かないタイプと見たね。完全にビビってたし」
「でも経験積めば…まあ経験積む前に辞めそうだけどな。ウチは環境悪いし給料悪いし」
「あと素直過ぎるのも問題よ。死ねとかファックとかそのまま訳しちまったらどうしようもないでしょ。あそこは角が立たねえように上手くやってくれないと。なあブリ」
「ソッスネー。ソノマンマツウヤクサレテタラ、オレモ10カイホドクビニナッテルデショウシネー」
イ軍流、現場対応力を最重視する採用面接の一端であった。